Conf-001
学会テーマは「災害時のELSI ― 倫理的・法的・社会的課題を多職種で語ろう」
シンポジウムでは初めに、石川秀樹教授より災害関連死の増加と「誰ひとり取り残さない」こと、「寄り添う」ことの意味について登壇者に投げかけがあり、災害対応における“ELSI(Ethical, Legal and Social Issues)”を、多職種・多分野の専門家がそれぞれの立場から語り合った。私は、これまでELSIとは、個人の倫理的実践だと考えていたが、今回の議論を通して「多様な立場の人々が取り組むELSI」という視点を得た。シンポジウムの最後に市古太郎教授より、いのち、くらし、なりわい、すまい、まちの復興を考えたとき、一人の力では無理があり、連携し合う必要性があるとまとめられた。学会を傍聴し医療・保健分野の知見に触れ、“人を中心とした災害復興”を改めて考え、他職種連携の可能性を再認識できた。災害対応や復興を、「予防 → 対応 → 復旧 → 社会再生」と連続的に捉える視点の重要性も再確認でき、今後の実践につなげていきたい。
□災害復興・医療・看護・法曹に関わる登壇者発表から個人的メモ:
- 草地賢一氏、小田実氏の言葉の紹介から、災害対応の資源としての市民性。災害ボランティアの専門性。災害復興では、防災構造物と生活基盤整備による復興が目的化し目指されてきたが、それは手段であり、「ひと」に着目したわがまち、我が故郷の復興が目指されるべき。医療・看護者が急性期に被災者から受けた言葉を、その後のまちやひとの復興につなげる連携の必要性。「誰一人取り残さない」の「誰」とは、取り残される可能性のあるグループであり、その人々の見える化が大切。その可能性のある社会とは平時における社会でも取り残している可能性があり、日常からの対応が大切。災害時の「自助論」的な空気の再検討が必要。(市古太郎教授)
- 効果的な災害医療の現場での「黒タップ」については、遺族側と救助側の心のケアが問題となる。被害者家族に対するグリーフケアが、救う側のメンタルケアにつながる。(村上典子医師)
- 武藤香織教授のコロナ禍における「危機が迫ったときに私たちは容易に人を攻撃する」という分析事例から、ハンセン病への対応について、差別、偏見、誹謗、中傷に対抗する「人の優しさと人への思いやりがウイルスを克服する力となる」という発言。(岡部信彦医師)
- コロナ禍の経験から、患者と被害者の孤立を避け病気を治し予防も行う「治し支える医療提供が大切。患者の「思い」「生活」に配慮したACP※が大切。そのために切れ目のないACP、地域を巻き込んだACP、誰が誰にACPを繋ぐかが大切。お互いを知ること、「死をタブー視せず」Advance Life Planningが必要。(上野真弓看護部長)
□感想:地域を巻き込んだACP→医療・看護とまちづくりとの連携の糸口を再確認。※【ACP(Advance Care Planning):自分の人生観や価値観を尊重した生き方を実現し、意思決定が難しくなった時に希望に沿ったケアを受けることを目的とする】 - 秋葉原通り魔事件で一般市民として救命措置にあたり(バイスタンダー※)その後心の問題を抱えても何ら補償を受けられない法制度の不備、補償の議論さえ起こらない社会。声を上げた人に対する社会の寛容性の醸成。(西村博章氏)
□感想:研究者、障害者かつバイスタンダーである西村氏の、「お互い様」の社会が大切という言葉の重みと当事者研究の可能性に希望を持てた。※【バイスタンダー:救急現場に居合わせた人】 - 健康の社会的決定要因が80%を占め、法律もその一つ。法律・法制度は、予防的側面もあり、福島県立大野病院事件を例に、これまでの事案を正しく理解して伝えること。いたずらにお互いを排除し合わず、対話とコミュニケーションが重要。「善きサマリア人法」の事例を取り入れるには、その社会背景の理解が不可欠。倫理の関与、社会のキャパシティを増やす必要性(南谷健太弁護士)
(2025年11月/平木)
